はじめて受診される際は、紹介状が必要です。
脳神経外科は特殊な専門分野で、普段あまりかかわりたくない診療科のように考えていませんか?
しかし、実際は頭痛、めまい、頭部外傷、脳梗塞、脳出血、物忘れなど脳にかかわるすべての病気を診療の対象としており、手術を必要とする病気だけを診る科ではありません。
また、セカンドオピニオンについても十分御理解できるような説明を心掛けております。
頭痛、めまい、物忘れ、頭部外傷、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、脳腫瘍、脊髄腫瘍、脊髄空洞症、脳膿瘍、髄膜炎など脳神経にかかわる多くの病気を扱います。
特に診断の難しい特発性正常圧水頭症(手術で治せる物忘れ、歩行障害や尿失禁)の治療経験が豊富で、神経内視鏡を用いた手術も特徴のひとつであります。
頭痛はよく経験される症状です。頭痛には緊張型頭痛、片頭痛、群発性頭痛、大後頭神経痛などいろいろなタイプがあります。近年、片頭痛に対する特効薬が開発され、今まで以上に頭痛は「治せる病気」として注目されるようになりました。日頃から頭痛でお悩みの方は我慢せずにぜひ御相談下さい。
また、頭痛と言えども中には生命に危険を及ぼすものがあります。単なる頭痛と思ったら、実はくも膜下出血、脳出血や脳腫瘍による頭痛であることがしばしばあります。「いつもと違う激しい頭痛」を感じたら、ぜひ脳神経外科を受診して下さい。くも膜下出血について詳しく御説明しましょう。
脳動脈瘤は1-2%の人が持っていると言われています。めったにあることではないのですが、この脳動脈瘤が破裂するとくも膜下出血を来します。くも膜下出血により約半数の方が死亡します。治療ができても、後遺症もなく社会復帰できるのは約3分の1で、残りは後遺障害を残します。治療せずに放置しますと、半年で約3分の1しか生存しません。以後も1年で3-4%の再破裂率が予想されます。
治療:治療の目的は出血の予防であり、内科的治療は無効です。以下の2つの方法があります。
1.開頭による脳動脈瘤クリッピング:
1970年代から行われている脳動脈瘤のスタンダードの治療方法です。手術顕微鏡下で脳動脈瘤の頚部を金属製のクリップではさむ手術です。
2.血管内手術:
1990年代から行われるようになった方法で、プラチナ製のコイルを脳動脈瘤内にカテーテルで導き、動脈瘤を塞栓する方法です。したがって、開頭はしなくて済むのですが、万一動脈瘤が破裂した時の対処法がなく、大きな脳動脈瘤や頚部の広い脳動脈瘤では塞栓後の再開通率が高い難点があります。しかも長期的な有効性は不明です。
しかし、手術困難な脳動脈瘤では第一に考慮されるべき方法です。いずれの方法が良いかは、脳動脈瘤の位置、形や大きさにより決定されます。
めまいもよく経験される症状ですが、天井がくるくる回るめまいから、まるで揺れる船の上にでもいるようなめまいもあります。単に「年のせい」だけではありません。
めまいを起こす原因にはいろいろあります。生命に危険を及ぼさない耳鼻科でよく扱われる良性発作性頭位変換性めまい症に代表される「良性のめまい」の他に、脳動脈硬化による慢性脳循環不全、脳梗塞や脳出血、脳腫瘍など生命に危険を及ぼし得る「悪性のめまい」もあります。なかなか改善しないめまいを感じたらぜひ受診して下さい。
物忘れは主に神経科や心療内科で診ますが、物忘れを起こす病気はいろいろあります。老化に伴って見られるアルツハイマー病に代表される神経変性疾患、脳梗塞や脳出血による血管性認知症などが代表的です。
これら以外の原因による物忘れには、「いわゆる治療可能な認知症(treatable dementia)」があります。代表的なものに正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、慢性脳循環不全や脳腫瘍などがあります。この他に甲状腺機能低下症、薬物、うつ病などでも認知症を来します。
脳神経外科で「物忘れ」を扱う理由は、「手術で治せる認知症」である正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、慢性脳循環不全や脳腫瘍などを見つけだして治療するためです。
どうも会話がうまくできない、元気がなくなってきた、歩くのも不安定になってきた、尿失禁が見られるなどの症状が物忘れ以外にある場合には、ぜひ脳を調べてみましょう。
認知症患者さまの3-5%は正常圧水頭症によるものと言われます。脳や脊髄はくも膜に被われ、脳脊髄液という水が循環しています。
脳脊髄液は、脳の内部にある脳室という部屋で産生され、くも膜下腔(脳とくも膜の間)を循環し、頭頂部にあるくも膜顆粒というところから血管の中に吸収されます。何らかの原因で、この脳脊髄液の循環吸収障害により脳室が拡大して、症状として歩行障害、 認知症や尿失禁などを認める症候群が正常圧水頭症です。
他の認知症をきたす多くの病気と違い、適切な治療が行われば、症状が改善する可能性が高いとされ、手術によって治る 認知症の代表的な病気の一つです。
原因:
原因が特定できない特発性のものと原因が明らかな続発性のものとがあります。続発性正常圧水頭症の原因疾患としては、くも膜下出血、頭部外傷、髄膜炎、脳出血などがあります。
特発性正常圧水頭症は認知症を主症状とする脳室拡大を伴うアルツハイマー病や脳血管性 認知症などとの鑑別がしばしば困難なことが多く、また、特発性正常圧水頭症とこれらの疾患が合併することもあります。このため、どのような患者さんが治療により改善が期待できるかを選別することが重要となります。
症状:
典型的には、歩行の不安定さや尿失禁に加えて、記憶力障害や動作が緩慢になり、認知症の症状などが見られるようになります。はじめにみられる症状は歩行障害であり、パーキンソン病の歩行に似ています。認知症の症状が最初に見られることは少ないとされ、多くは歩行障害と同時に見られるか、歩行障害に続いて出現します。尿失禁は最も遅れて症状を出すことが多いと言われています。
治療:
正常圧水頭症の治療としては、貯留した脳脊髄液を管を使って、他の部位へ流す手術を行います。すなわち、脳室-腹腔短絡術や腰部くも膜下腔-腹腔短絡術により、“水の吸収をはかるためのバイパス”を作ります。これにより、50-70%の方で改善が期待できます。 実際に当院で治療されました正常圧水頭症の患者様のご家族の体験談もご参考にしてください。
頭部の打撲により、2週から1、2か月して、しだいに脳の硬膜(頭蓋のすぐ内側にあって、脳を包む膜)と脳の間に血液(血腫)が貯留し、脳を圧迫することによっていろいろな症状を生じる病気です。
症状:
多くは頭部打撲から1か月がたってから頭痛、吐きけが現れ、徐々に進行して片麻痺や意識障害をきたします。尿・便失禁を生じてくることもあります。時に何となくぼんやりしている、活動力が低下しているなどの症状を呈して認知症の症状が前面にでてくることもあります。
アルコール好きな男性に多くみられます。なかには頭部打撲の既往がはっきりしないこともあります。
治療:
穿頭血腫洗浄除去術がおこなわれます。局所麻酔下に約3cmの小さな頭皮切開を設けた後、頭蓋骨に約1.5cmの穴を設けてその穴より生理的食塩水で血腫を洗浄除去します 。20分くらいで終わる簡単な手術で、早期に行われた場合はほとんど後遺症なしに治ります。
脳腫瘍には脳から発生した原発性脳腫瘍と癌の転移による転移性脳腫瘍などがあります。頭痛、吐き気、けいれん、片麻痺、視力障害や視野障害、言語障害や認知症などの症状で見つかることが多いです。
良性の脳腫瘍は手術だけで治癒が期待できます。
悪性脳腫瘍は手術だけでなく、放射線照射や化学療法が必要になります。癌の脳への転移であっても、あきらめてはいけません。手術やガンマナイフによる放射線照射(癌のあるところだけ集中して放射線を照射する治療)などで治癒、またはuseful lifeの延長が期待できます。
また馴染みが少ないかも知れませんが、ホルモンの産生を司る脳下垂体の腫瘍があります。この部位には良性から悪性までいろいろな種類の腫瘍ができるので、治療前の診断が大切であり豊富な経験と知識が必要です。診断によっては手術ではなく薬で治療をすることもあります。手術が必要でも鼻からの手術で治せる脳腫瘍です。
1.脳内血腫除去術
脳出血に対する治療としては、出血が少量ならば点滴で保存的に治療されます。しかし、出血が多く、生命の危険がある場合は、開頭手術により、血腫(溜まった血液の塊)除去を行います。
出血が中等量の場合の治療については、欧米の報告では手術療法と、保存的治療との間には発症後6ヶ月、12ヶ月後の状態に差がないとされ、保存的治療が選択されることが多くなってきました。
しかし、脳内の血腫が自然吸収されるまでには時間がかかり、その間、意識の悪い状態が続いて食事が取れなかったり、高血圧が続いたりして、リハビリテーションにもなかなか移れないというジレンマがありました。
血腫はその量が多いほど周囲の脳を圧迫し、脳のむくみを引き起こし、意識状態や血圧に影響します。血腫の量が減って、周囲の脳への圧迫が除去されると、それらが解決し早期離床につながると考えられます。
ただ、開頭手術は全身麻酔になり、特に高齢者への負担は大きくなります。そのため簡単な手術で血腫除去ができれば、という思いは脳神経外科医の多くが抱いていました。
神経内視鏡を用いた脳内血腫除去術は、開頭手術に比べ低侵襲で、局所麻酔でも可能、手術時間も1-2時間でできます。適応となるのは、血腫が中等量で、出血の原因に特殊な血管病変がない、血が止まりにくくなるような病気(肝硬変や血友病など)がなく、または血がさらさらになるようなお薬(アスピリンやワルファリンなど)を飲んでいない、心臓や肺、腎臓の状態が悪く全身麻酔下での開頭血腫除去術が行えない場合などです。
当科の鈴木伸一医師、味村俊郎医師は神経内視鏡を用いた脳内血腫除去術の経験が豊富で、適応症例には神経内視鏡下脳内血腫除去術を積極的に行い、早期離床、急性期リハビリの開始に努めています。
2.シャントに頼らない水頭症治療-第三脳室底開窓術
水頭症の治療は、主に脳室-腹腔短絡術(VPシャント)、腰部くも膜下腔-腹腔短絡術(LPシャント)などが行われています。近年はシャント手術の技術向上や、治療器具の発達により、安全、低侵襲で有効な治療として行われています。
しかし、シャントの大きな問題は、シャント感染(シャントチューブの細菌感染)、シャントチューブの閉塞といったリスクがあることと、小児の場合、成長に伴い腹腔側チューブを延長する手術が必要になることです。
神経内視鏡による第三脳室底開窓術はシャントに頼らない水頭症の治療法です。神経内視鏡とは、胃や大腸で使う内視鏡(ファイバースコープ)と同じ構造ですが、脳外科手術用に細く短く改良したものです。
脳表から脳室内に内視鏡を通し、第三脳室の底部に5mmほどの穴をあけるという手術法です。この手術により、髄液の新しい流出路を作ることができ、髄液の循環を改善させることができます。しかし、この手術は、すべての水頭症に対して有効ではありません。現在、有効であるとされているのは、
です。この治療法は、発展途上の部分があり、適応症についても広がりつつありますので、個々の患者さんの病状によって、検討していく必要があります。
また、すでにシャント手術を受けられた方もこの治療は受けられます。水頭症の原因が上述の条件に入る場合、第三脳室底開窓術を行い、シャントシステムを抜去することも可能です。
小児でシャントがあるために、体育の授業の制限を受けていたような方も、この治療によってシャントシステムが必要なくなれば、制限は減ると思われます。
過年度の手術の内訳は、脳腫瘍の摘出術が40-50件(下垂体腺腫の手術は約10%)、くも膜下出血などの脳動脈瘤の手術が20-30件となっています。
正常圧水頭症の手術件数は特に多く、このうち特発性正常圧水頭症は約70%を占めています。
手術法は脳をいじらずに治す腰椎くも膜下腔・腹腔シャント術によるものが約90%でした。2008年の厚生労働省正常圧水頭症研究班の調査では日本一を誇る治療件数でした。
▲顕微鏡下に脳動脈瘤を見る
▲脳動脈瘤をクリッピングしたところ