医療関係者の皆様へ

冠動脈ステント挿入後の抗血小板療法

 横浜南共済病院 循環器内科 
循環器検査部長 木村 茂樹

抗血小板薬2剤(DAPT)の必要性

薬剤溶出性ステント(DES)の登場により慢性期におけるステント再狭窄率は著しく減少し、冠動脈治療における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適応は格段に広がりました。一方、金属ステントの時代からステント血栓症のリスクは指摘がありましたが、第一世代のDESの普及によって晩期・超晩期のステント血栓症の危険性がより注目されるようになりました。ステント血栓症の頻度は少ないながら大きな心事故につながるため、これを予防することは患者さんの生命予後を考える上で極めて重要です。第一世代DESの時代においては、できる限り2剤の抗血小板薬(DAPT)を継続することで、心事故の発生を予防することが必要とされるようになりました。一方でDAPTの継続は出血性イベントを助長するリスクも含んでおり、DAPT継続についてはそのリスクとベネフィットを考慮することが重要です。

ステント血栓症の機序としては、急性期における病変背景・手技に伴うもの、晩期・超晩期におけるステント挿入後の血管治癒反応の遅延・ポリマーなどによる持続的な炎症反応、さらに新生内膜の動脈硬化進行などがあげられます。近年、薄いステントストラットで生体適合ポリマーを有する新世代DESが登場することで、ステント挿入後の血管治癒遅延や炎症反応の持続については改善が見られるようになり、ステント血栓症のリスクも軽減したと考えられています。このためステント治療後のDAPT継続の意義は薄らぎ、冠動脈治療を受けた患者さんの良好な生命予後を達成するためには、出血リスクを回避することが重要であるとする意見が欧米・日本を問わず盛んに述べられるようになっています。

高出血リスク(HBR)

近年のガイドラインにおいては、冠動脈治療を行う際に高出血リスク(HBR)患者を識別することが重要であるとされており、欧米人に比較して出血リスクが高いとされる日本人の管理については日本循環器学会が日本版HBR(ARC-HBR+低体重、フレイル、心不全、末梢動脈疾患)(図1)を作成し、血栓リスクよりも出血リスクを優先して考慮すべきというフローをガイドラインにおいて示しています(図2)。

(図3)

▲図1: 日本版HBR

(図4)

▲図2: 日本循環器学会ガイドラインから抜粋

またDAPT中止後の抗血小板薬についてアスピリン、P2Y12阻害薬のいずれを継続するべきかの議論もあり、近年ではDAPT後のP2Y12阻害薬単剤継続の有用性が多数報告されています。特に欧米人と比較して日本人ではアスピリンによる消化管出血や脳出血のリスクが高いとされており、ステント治療におけるアスピリンの必要性を再検討しようとする試みも始まっています(STOP-DAPT 3試験)。

各抗血小板薬について

一方でアスピリンによる抗動脈硬化作用、抗血栓作用についての有用性は長期に渡り数多くの研究から確立しており、この点においてP2Y12阻害薬とアスピリンを比較しての優越性は証明されていません。P2Y12阻害薬の種類についても議論があり、クロピドグレルの抗血小板活性は代謝酵素の遺伝子多型を原因として個人差が多く、特に日本を初めとする東アジア人においては、正常遺伝子をホモで持つ割合は50%未満ともされています。遺伝子型がそのまま血栓症リスクに直結するわけではありませんが、特にACS治療後早期にDAPTからクロピドグレル単剤に変更する場合には、この遺伝子多型のリスクについても念頭におく必要があると考えられます。こういった背景から日本においては、プラスグレルの使用が急速に普及しており、DAPT後の単剤薬としてもプラスグレルの継続が認められるようになってきています。一方、出血リスクの回避から日本におけるプラスグレルの常用量は欧米に比較して少ない量が設定されており、ステント挿入後の血栓性イベントの抑制効果について、特に待機的PCIにおける有用性は大きなエビデンスをもって実証されていません。欧米で普及しているチカグレロールについては、日本人における治験において他のP2Y12と比較して有用性が証明できておらず、欧米のように普及していないのが現状です。

新生内膜動脈硬化進行

冠動脈疾患に対するステント治療においては、異物が生体に与える影響は回避できず、晩期に起こる新生内膜の動脈硬化進行は新世代のDESにおいても発症しうるとされています。新生内膜の動脈硬化進行には、腎機能障害やLDL-cholの数値が関与しているとの報告もあり患者背景や冠動脈リスクを考慮した管理が必要です。

病変背景・手技に応じた管理

ステント血栓症のリスクを回避するためには、良好なステント拡張やステント圧着、ステント挿入時の合併症の回避など、最適なステント植え込み術を実施することが必要です。これが達成出来ていない場合には、急性期のみならず晩期・超晩期においてもステント血栓症のリスクが高くなるためステント挿入時における冠動脈イメージングの重要性が唱えられています。また近年では高齢化社会にともない、高度石灰化病変や慢性完全閉塞、ACS病変といった動脈硬化が強く、血栓リスクが高い病変や左主幹部を含む分岐部病変・多枝病変・びまん性病変など複数のステント挿入を要し、ステント血栓症のリスクが高くなる手技が増えており病変背景・手技に応じた抗血小板薬の管理も重要です。

今後の展望

冠動脈ステント治療においてはDAPT継続の出血リスクを回避することは重要ですが、ステント血栓症・新規の冠動脈イベントを予防することも当然ながら重要であり、特に現在の日本において盛んに唱えられているShort/Super-short DAPTあるいは、アスピリン回避の概念がしっかりとしたエビデンス力をもって実証されるのか、またその結果が海外を含む現在の循環器医療にどのような影響を与えるのか注目されるところです。

実地の先生方へ

冠動脈ステント挿入後の患者さんの管理については、病変背景や手技にともなう個々のリスクを念頭に長期的にフォローアップを行うことが重要であり、このためには実地の先生方と一層の連携させて頂くことが肝要と考えます。病変・手技などの詳細な情報を実地の先生方と共有させて頂きながら、今後も冠動脈疾患患者さんの治療にあたらせて頂きたいと思います。また当院では心筋シンチや冠動脈CTといった、非侵襲的画像診断を速やかに行うことが可能です。冠動脈ステント挿入後で安定されていると思われても、しばらく精査をうけられていない患者さんがおられる場合には、当院でのスクリーニング検査を受けられることをお勧め頂けますと幸いです。

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